2020年9月29日、オンラインにて『神奈川県SDGs×インパクト・マネジメントセミナー2020』第1回を開催しました。神奈川県が取り組む「神奈川県SDGsモデル事業」の概要や社会的インパクト・マネジメントについて説明すると共に、SDGs×金融の実践事例としてインパクト投資の動向や日本のインパクト投資ファンドのご紹介を行いました。また11月から開催予定の「神奈川県SDGs社会的インパクト・マネジメント実践研修」の内容、参加方法の説明に加え、昨年度の研修参加者をパネリストに迎え感想や現状等もお聞きしました。
本レポートではセミナーの内容についてお伝えいたします。
※セミナーはこちらからご覧いただけます。
1. 開会挨拶(神奈川県理事(いのち・SDGs担当)山口 健太郎氏)
冒頭、神奈川県理事(いのち・SDGs担当)の山口 健太郎氏より開会の挨拶をいただきました。
理事からは、「いのち輝く神奈川」を標榜する神奈川県がSDGs達成に取り組むことで、複雑・多様化する社会的課題の解決を目指しているとご説明いただきました。具体的には神奈川県が作成した「かながわ版SDGs金融フレームワーク」に基づき、SDGsに取り組む企業等を金融機関が連携して支援する体制についてご紹介がありました。この体制における県の役割は①SDGsに取り組む企業を登録し、時に制度融資を行う「かながわSDGsパートナー制度」の実施、②SDGsに取り組む中小企業に対する伴走型支援、③SDGsに取り組む企業のインパクトを可視化し、インパクト投融資につなげる「SDGs社会的インパクト・マネジメント」の実施の3つあるということです。
そして、今回のセミナーや11月から開始する「神奈川県SDGs社会的インパクト・マネジメント実践研修」を実施する神奈川県SDGsモデル事業は、③「SDGs社会的インパクト・マネジメント」の一環であり、特に本研修事業は人材育成と事例づくりを目的に行うというお話をいただきました。
2. 「神奈川SDGs社会的インパクト・マネジメント」について(ケイスリー株式会社 落合 千華氏)
次に弊社落合より、社会的インパクト・マネジメントとは何かについて、簡単に下記の内容をご説明させていただくと共に、神奈川県SDGsモデル事業についても紹介させて頂きました。
⑴ 社会的インパクト・マネジメントとは
社会的インパクト・マネジメントの定義は「事業の社会的な効果や価値に関する情報に基づいた事業改善や意思決定を行い、社会的インパクトの向上を志向すること」であり、そもそも社会的インパクトとは「短期、長期の変化を含め、当該事業や活動の結果として生じた、社会的、環境的な変化・成果のこと」です。
社会的インパクト・マネジメントの特徴は「事業活動の直接の結果(アウトプット)だけでなく、事業が社会に与える変化・成果(アウトカム)を測定する」点や、社会的インパクト・マネジメントの流れとして「設計→測定→分析→報告・活用のサイクルを回していく」という点です。
⑵ 神奈川県SDGsモデル事業について
冒頭の開会挨拶にもありましたが、社会的インパクト・マネジメントによってSDGsに取り組む企業のインパクトを可視化・改善し、資金提供者との対話に活かすことでSDGs推進に取り組むことが、神奈川県SDGsモデル事業の目的です。
「インパクト投資やESG投資の市場規模が年々高まっており、資金提供者からは企業の財務情報だけでなく、非財務情報も求められるようになっている」という現状があります。こうした背景も踏まえ、神奈川県SDGsモデル事業では「SDGsと社会的インパクト・マネジメントの接続」「金融との接続」「人材育成」の3本の柱で、SDGs達成に向けた持続的に価値を創出するエコシステム形成を目指しています。
3. インパクト投資家による「社会的インパクト・マネジメント」の実践(新生企業投資株式会社 黄 春梅氏)
インパクト投資ファンドを組成した新生企業投資株式会社の黄 春梅氏に登壇していただきました。
新生銀行グループのインパクト投資ファンドの事例を紹介していただくと共に、インパクト投資とは何か、インパクト投資の海外・国内の動向、社会的インパクト評価・マネジメントの動向についてご説明いただきました。
4. 「SDGs社会的インパクト・マネジメント実践研修」について(ケイスリー株式会社 今尾 江美子氏)
11月から開始予定の「神奈川県SDGs社会的インパクト・マネジメント実践研修」について、参加方法や内容など、昨年度の様子を踏まえてご紹介いたしました。
※「神奈川県SDGs社会的インパクト・マネジメント実践研修」についてはこちらをご覧ください。
5. 昨年度の研修参加者の声
昨年度の研修に事業者として参加した株式会社TBMの羽鳥徳郎氏、及び資金提供者として参加した日本ベンチャーキャピタル株式会社の照沼大氏に登壇していただきました。お二人から研修の具体的な取り組み内容や、研修に参加した理由、研修から得た気づきなどを説明していただきました。
⑴ 株式会社TBM 羽鳥 徳郎氏
株式会社TBMは、石灰石から紙・プラスチックの代替となる新素材「LIMEX」を開発しています。LIMEXによる循環モデルを構築する協力者を増やし、具体的な取り組みを促進することを目的として、昨年度の研修に参加しました。
研修から得た学びとしては、下記の2点を挙げていただきました。
比較的早期にロジックモデルを構築し始めたことから、事業推進メンバーとインパクトに対する認識をすり合わせながら進められた。
事業の企画段階からロジックモデルを検討することで、事業の全景を描き出しつつ、重要性の高い施策を洗い出すことが出来ると感じた。
⑵ 日本ベンチャーキャピタル株式会社 照沼 大氏
日本ベンチャーキャピタル株式会社の照沼氏は昨年度、資金提供者の立場で研修に参加しました。今年度、日本ベンチャーキャピタル株式会社は社会的インパクト・マネジメントを社内の投資判断に活用すべく、神奈川県SDGsモデル事業の実証事業の一部としてご協力いただきます。
研修から得た学びに関しては、「社会課題に関心を持つ若い起業家も増えている。ロジックモデルを作成し社会的インパクトを可視化・測定するという行為は、ベンチャー投資の領域においても活用されるべきだと強く感じた。」というお言葉をいただきました。
6. 質疑応答
セミナー中、参加者から多くの質問をいただきました。以下いただいた質問と回答を列挙させていただきます。(セミナー中にコメントでやり取りさせていただいたものについては、一部割愛させていただいております。)
Q1 インパクト投資のための評価は、社内の稼働や費用面で負担にならないでしょうか?
たしかにインパクト評価は企業がリソースを割いて行う必要がありますが、それを上回るメリットを生み出せます。インパクト評価というのは、「評価のための評価」ではなく、企業と投資家の対話を円滑にすると共に、事業改善に役立ちます。実際にインパクト評価を実施した企業からは、ロジックモデルを作成することで、新規事業の開発や既存事業の改善に役立ったという声を多くいただいています。(新生企業投資株式会社 黄氏)
インパクト評価を行うことで事業が社会に与える影響を測る指標ができる、というメリットは大きかったです。(株式会社TBM 羽鳥氏)
Q2 ESG投資とインパクト投資の違いを具体的に教えていただきたいです。
ESG投資とインパクト投資は概念的に重なる部分も多いと思います。ただESG投資はリスクとリターンの2次元的な評価をするのに対し、インパクト投資はリスク、リターン、インパクトの3次元で評価する点が大きく違います。インパクト投資では事業が「インパクトを創出する意図があるか」をより重視します。(新生企業投資株式会社 黄氏)
ESG投資では企業の公開情報から投資判断を行うのがメインですが、インパクト投資では投資家と企業がインパクト創出を意図して対話する、という点が異なります。その対話の際に社会的インパクト・マネジメントが有効だと感じています。(日本ベンチャーキャピタル株式会社 照沼氏)
Q3 事業の意思決定をできる立場にないのですが、実践研修に参加することは可能でしょうか?
もちろん応募は可能です。しかし、実際に社会的インパクト・マネジメントを活用して事業を推進し、神奈川県SDGsモデル事業の中でインパクトを創出したいという意図から、意思決定可能な立場の方が参加できるケースを優先させていただきます。(ケイスリー株式会社 今尾氏)
Q4 社会的インパクト評価とは、セオリー評価やアウトカム評価など様々な評価手法の中の一つという位置づけでよろしいでしょうか?
社会的インパクト評価は「プログラム評価」と手法がほぼ同一です。SIMI(社会的インパクト・マネジメント・イニシアチブ)が評価学と社会的インパクト・マネジメントの関係について整理していますので、よろしければご覧ください。(参考:https://www.impactmeasurement.jp/)なおセオリー評価やアウトカム評価などを全て含んだものが「プログラム評価」であり、社会的インパクト・マネジメントと同義となります。(ケイスリー株式会社 落合氏)
以下はセミナー中に回答しきれなかった質問となります。
Q5 NPOと民間企業で、社会的な事業のマネジメント手法に差はありますか。
NPOと民間企業で社会的インパクト・マネジメントの手法に差はありません。社会的インパクト・マネジメント・イニシアチブ(SIMI)が出している「社会的インパクト志向原則」では、立場や役割の違いに関わらず、社会的インパクト志向で事業や活動を実施するための基本方針を定めています。事業や取り組みによって質的・量的に正のインパクトを向上させ負のインパクトを低減させることを事業や活動を通して実践する事業者であれば、その手法には差はありません。SIMIで公開されている志向原則、フレームワークを参考にしていただけるとよいと思います。参考URL:https://www.impactmeasurement.jp/tool/practice_guide
Q6 事業・組織評価フレームワークとは具体的にどのように使うものなのか知りたい。
ケイスリーも加盟するImpact Management Prioject(IMP)のフレームワークを昨年度のレポート「SDGs達成に向けた金融における社会的インパクト・マネジメント活用の可能性」でご紹介しています。(参考URL:https://www.pref.kanagawa.jp/documents/47881/200402document4.pdf)上記資料のp20では、「WHAT / WHO / HOW MUCH / CONTRIBUTION / RISKの5つのインパクト目標を明確にすることで初めて投資家は、ポートフォリオを分析し、投資先企業/資産の目標達成度合いを評価できる。」と記載しております。こうしたフレームワークが企業と投資家の共通言語となり、インパクトに関する対話が促進されることが考えられます。
また、上記の社会的インパクト・マネジメント・イニシアチブ(SIMI)でも、社会的インパクト・マネジメント・フレームワークを公開しており、ここでは評価の手法等も含めて大枠のフレームワークが紹介されています。(参考URL:https://www.impactmeasurement.jp/nsimi/wp-content/uploads/2020/05/impact-management-framework-ver.1.1.pdf)
Q7 実践研修は事業者対象とのことだが、中間支援団体向けに研修等の学びの機会はあるか。
実践研修は事業者対象となっておりますが、今回のような入門研修(セミナー)をあと2回開催予定です。改めてご案内させていただければと思いますので、ぜひご参加ください。
Q8 インパクト投資が大手企業、上場企業に適用されることもあるのか。インテンションなど、話を伺うと、ソーシャルベンチャーのための資金のような印象を受けた。
はい、上場企業への投融資もあります。金融庁の「上場株式投資におけるインパクト投資活動に関する調査」報告書 によると、“元々は未上場株式等の未公開市場が活動の中心であったが、上場株式投資におけるインパクト投資活動が足元で急速に拡大し、2019 年末時点で世界では約 60 の運用機関が 120 を超えるインパクト投資ファンドを提供しているというデータも存在する。”との記載があります。また、インパクト投資とESG投資の違いについては、明確な違いは最終的な目的が異なるところで、ESGでは長期的な投資収益の最大化が目的、インパクト投資は長期的な投資収益に加えてインパクト創出が目的となる点です。インパクト投資の場合には収益の最大化を目指す場合もあれば、そうでない場合もあります。(参考URL:http://impactinvestment.jp/2020/08/729.html)
『神奈川県SDGs×インパクト・マネジメントセミナー2020』は全3回を予定しております。第2回の実施日程は未定ですが、開催日時が確定次第、弊社HPにてご案内させていただきます。
セミナーに参加された皆様、長い時間お付き合いいただき有難うございました。セミナー及び神奈川県SDGsモデル事業に関して、ご相談・ご質問等ございましたら、下記連絡先までご連絡ください。
【連絡先】
ケイスリー株式会社
神奈川県SDGs社会的インパクト・マネジメント実証事業事務局
sdgs-k@k-three.org
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